陰謀との戦いの夢

 存在したことのないリビングで、祖母が難解な宇宙論などの話題が含まれたエッセイを読んでいる。分からないだろうに、「でも面白い」とかのコメントを母にしている。僕は、ベニヤの壁一枚隔てた物置スペースからそれを見ている。そのスペースの雰囲気は寒々しく、北国の家めいている。

 映画の中の場面。あるいは実在する映画のあらすじを想起したもの。冷戦期の東欧かソ連めいた芸術映画の雰囲気。教会をテロ組織が襲い、ある男の妻が殺されてしまう。男はスーパーマンのような格好で表に躍り出る。ナレーション「男は、対話を必要としない相手との戦いが始まるのだと直感していた」その行く手に、トマホーク斧を持った、赤いフードの処刑人が現れる。処刑人は斧を男へ投げようとするが、その時ボスからの司令でも入ったのか、投げるのを止めて背後の階段を降りる。そこへ、スーパーマン男の供である、キジ、ウサギ、犬が駆け付ける。彼らは着ぐるみの人物で、スーパーマンに代わって処刑人を倒そうとするが、反対に銃で撃たれて殺されてしまう。キジの断末魔が響く「畜生、畜生〜。畜生め〜」折り重なって倒れたキジと犬の下で、ウサギが生き残っている。

 テロ組織のアジト。リスが檻に入れられている。「我らの友人を教会から手に入れることに成功した」このリスこそ、襲撃の目的だったのだ。処刑人の男は黒帽子黒コートの長身の姿に変わり、白髭をたたえたカリガリ博士めいたボスとにこやかに会話を交わす。「農作物の収穫はまだでしょうか」「暗黒マギア、と言いたまえ」この組織は、取るに足りない事象を物騒なコードネームで呼んで大げさに扱う、ふざけた集団であるらしい!先ほどのリスも恐らくはただのリスなのだ。「おや、会員証が」長身の男は、胸元のバッジを落としてしまったことに気付き、新しい缶バッジを受け取る。それは白地に黒でそれらしいロゴの入ったただの缶バッジで、それを労働者用のみすぼらしい黒コートに付けていると、場違いな上に安っぽい。長身の男は、内心、付き合いきれなさを感じている。

 長身の男とその部下(実はスーパーマン男)は、アジトを引き上げて電車で帰ろうとする。ボスには参ったものだね、ええそうでしょう、といった会話が駅の待合室でなされる。部下は、長身の男へ復讐する決意を既に固め、機会を伺っている。長身の男は自分のポケットを探り、クリップ状の発信器を取り出す。要らないものなのだが、間違ってゴミを持ってきてしまったらしい。長身の男は、それを線路の向こうへ放り投げる。そして、トイレに行くと言って部下に荷物を預ける。チャンスだ!あの発信器を手に入れれば、長身の男の行く先が把握できる。そのためには、奴がトイレから出てくる前に、気付かれないように線路の向こうへ渡り、発信器を拾うのだ。この場面は映画の山の一つである。部下は線路を覚束ない足取りで渡っていく。しまった、ど真ん中を渡ると人目につくな、ホームの端っこまで行って渡ればよかった……などと考える。

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